酩酊の夜 第一回
漁師 大垣げんさん、星川風太さん インタビュー
「酩酊の夜」とは、毎回屋久島や安房にゆかりのあるゲストを迎え、屋久島産の焼酎を飲みながら地域のこと、自分のライフワークや夢、そして屋久島の魅力を語っていただく特集コーナーです。
題名の通り、酩酊するほどに熱くなったり、どんどん脱線していくトークを楽しんで読んでいただければと思います。
今回はゲストに、安房で若手漁師として活躍する大垣げんさん、星川風太さんを迎え、屋久島の漁業のこと、海のこと、そしてこれからの夢などについて語っていただきました。
ゲスト
大垣げんさん(写真右)
東京生まれ 屋久島育ち。
屋久島・安房を拠点に漁師として働いている。
二児の父。趣味はサーフィンという、生粋の海好き。
星川風太さん(写真左)
長野県生まれ 屋久島育ち。
屋久島・安房を拠点に一本釣り漁師として働いている。
一児の父。趣味はげんさんと同じくサーフィン。
インタビュアー
川東繭右さん
東京と出身。2011 年より屋久島へ移住。
2014 年に安房の一本釣り漁師と結婚。
お魚マイスターアドバイザーとして、魚食普及活動や地域更新に励む毎日を送っている。
繭右:げんさん、風太さん、今日は焼酎を飲みながらのインタビューです。気軽な感じでお話してくださいね。よろしくお願いします。まず、今のシーズン、お二人がやっている漁から聞いていこうかな。
げん:今はシマアジ釣りかな。
風太:僕もシマアジだね。
繭右:シマアジ以外は何が釣れるの?
げん:イシダイ・アオエバ・クロ・メジナ・オキベタ・ヒラニザ、なんでも釣れるね。こんなおかずが豊富な時期はないもんね。
繭右:お二人が漁師になろうと思ったきっかけはなんですか?
風太:僕はとにかく釣りが好きで、その好きなことを仕事にしたいっていうのが一番かな。
げん:立派な答えだね~(笑)。俺はただただ、目の前にこの仕事があったっていう感じだな。
繭右:屋久島って、他の地域に比べて時化も多いし、ここでの漁業って正直不安定でしょ?その辺は、実際漁師になってみてどうですか?
げん:確かにそりゃあ、時化るよね~(笑)。でも、そこは仕方がない。気持ちの持ちようというか・・・。
風太:その辺は、自然の恩恵にあやかっているわけだから、それなりに満喫するしかないよね。僕らは波乗りが趣味だから、両立ができていいんだよね。時化たら波乗り、ないだら仕事。台風なんか来たら、大喜びで波乗りに行くね。(笑)
繭右:じゃあ、「漁師やってて良かったな~」って思うときって、どんな時?
げん:俺は、去年から自分の船を持って、一人でやってるわけだけど、やっぱりおっきい魚とか、狙い通りに釣れた時、あとは初めての魚が釣れた時、ホント嬉しいねぇ。
風太:人生の記憶に残る魚っているよね。そういう魚は写真に撮って、後でその写真を見ると一瞬でその時の光景がパーッと思い出されるんだよね。不思議なくらい。
げん:俺は写真は撮らないけど、図鑑に印つけて書いてる。何月何日、どこで、何センチ、何キロ、とか必ず記してる。漁師じゃなくても、釣り好きの人ならきっとみんなそうだよね。
繭右:屋久島ってそういう意味では、新種も見つかったりしてて、魚種の多さでは日本でも一番って言われてるんだよね。
風太:一日に発見できる魚の多さで、3年連続一位とかだよね。
繭右:屋久島には 530 種類くらいの魚がいるんだよね。
げん:そんな釣れないけどな~(笑)
繭右:熱帯魚も含めてだからね。(笑)
げん:俺は、風太に比べたら釣りを好きになったのってホント最近だけど、まあしかし、楽しいね。(笑)釣れた時の興奮ね。毎日シマアジ釣り行って、一匹一匹釣ってても、ホントに楽しい。いい仕事だよね。
繭右:ミズイカとかシマアジとかのやり取りをしてさ、船に上げるまでのあのドキドキ。
げん:俺なんか、緊張しすぎて、「ほっほっほっほっ」って、人がいたらその息が聞こえるんじゃないかと。(笑)
風太:げんがやり取りしてる時は、緊張しすぎて魚が逃げちゃうんじゃないかってくらい。女の子相手なら余裕の扱い、自然体なのに。(笑)
げん:いや~、やっぱりお魚さん相手だと、そうはいかないね~。(笑)
※じいじ屋さんのシカニクの水ギョーザが登場。
一同:わ~、いい匂い!おいしそう!
繭右:二人はおうちでは毎日魚料理食べてるの?
風太:まあ、そうだね。肉も好きだけど。
げん:俺のとこは、俺がいない時に肉食ってる。(笑)
繭右:お魚を自分で料理したりもするの?
げん:うちは基本的に魚料理は俺がやってるかな。最近俺は、沖縄のマース煮(塩煮)にはまって、そればっかり食べてる。沸かしたお湯の中に、魚の切り身なりアラなりを入れて、ネギとショウガを入れて、後は塩。簡単だね。あ、料理酒も入れるか。あと最後に油を少し垂らして。魚を食べた後の煮汁はスープにすればいいし。
繭右:船の上でも刺身とか食べてる?
風太:俺はいつも食べてる。でも、いつか一人で 2.5kg くらいの極上のオオソ釣って、一人で船の上で食ったんだけど、ご飯は冷たいし、一人だから寂しすぎて、美味いんだけどあんまり美味くなかったな。(笑)これ、みんなで囲んであったかいご飯で食べたら美味いだろうな~って想像しながら食べたね。(笑)
繭右:家で子供たちもお魚よく食べる?
げん:俺んちはよく食ってくれるね。でも種類によって全然食べてくれないこともある。何年か前に俺がまだ青年部の部長やってた頃、安房小学校にさばき方を教えに行ったんだけど、最初はさばきだけ教えて、その後で加工部で作ったすり身を上げて食べるっていう予定だったんだけど、子供たちがさばいた魚を見て「刺身!刺身!」ってやいやい言うもんだから、結局最後刺身にして食べたんだよね。でも、あん時めっちゃ嬉しかったな。子供って刺身食べたいんだ~って思って。もっと新鮮なやつ持ってくればよかった~って。
風太:最近は家庭で刺身さばいて食べるってこと少ないかもね。
繭右:私は移住者なんだけど、正直屋久島に来てスーパーなんかで売ってる魚の種類があまりにも少なくて驚いたんだよね。地元の魚があんまり流通してないというか。
風太:地域の魚屋さんが少なくなってるんだよね。昔は各集落に魚屋さんがあって、その日に上がった新鮮な魚が並んでたんだけど、最近はそういった魚屋さんが少なくなってしまって、大手のスーパーでは流通経路に乗ってるものしか扱えないから。でも、魚屋さんが無くなっていった背景には、家庭で魚をさばかなくなったんだと思う。
繭右:やっぱり、回りのお母さん方に聞くと、生ごみの問題とか、どう料理していいか分からない、手間がかかる、あとは値段かな。お肉の方が手軽で安かったりするんだよね。
げん:俺も、魚配りに行ったりすると、「どう料理したらいいの?」って聞かれるんだけど、普段やってないと料理の仕方が分からないんだよね。
繭右:そういうことを考えると、漁師さんによるさばき方教室とか、漁師飯教室とかさ、あと、漁協で魚料理のレシピがもらえるとか。そういう間口が広がるといいなと思うんだよね。あと、近海で釣れた魚を食べれる漁師飯食堂とかね。
風太:そう、そういったことって、みんな言ってるんだよね。やんなきゃって。でも、実際問題自分たちが漁に出て、魚釣って、帰ってきて料理したりっていうのは、正直難しいよね。
繭右:そうだよね。だからそういう部分は、それこそ「漁師の嫁食堂」じゃないけどさ、役割分担だよね。そこで奥さんたちが普段家庭で作っている料理を提供できたらいいんだよね。俗にいう「未利用魚(市に出回らない魚)」を使った食堂とかいいよね。鹿児島ではやってるとこもあるよね。
げん:安房港なんかは、若い漁師さんが他の地域に比べてたくさんいて、「今から」って漁師なんだけど、でも今から魚を食べてくれる人がどんどん減っていったら話にならないわけで。だから俺とか風太とかも取れた魚をどんどん配ったり、時には料理しておかず配ったりしてるんだよね。何とか次の世代の人たちにも魚を食べて欲しくて。
繭右:私も女の子たちを集めてお料理教室とかやってるけど、やってみたいっていう子は多いんだよね。魚も料理してあれば食べたい。(笑)
風太:そういう場所があればいいんだよね。
繭右:それから、トビウオ漁体験とかさ、漁見学ツアーとか。その場で取れた魚を刺身で食べたり、お土産で持って帰れるとか。そんなおもてなしができたら、観光客も喜ぶと思うんだよね。
風太:そうなるとサービス業的な要素が必要になってくるから、誰もができるとは限らないけどね。でも、いわゆる長老たちの昔話を聞かせてくれるだけでいいんだけどね。ホントにすごいレジェンドたちがいっぱいいるからね。それこそ、繭右ちゃんの義父さんとかさ。
繭右:私は移住者で、地元の漁師さんと結婚して、色々活動するうえでなかなか難しいところもあるんだけど、でも、やっぱり地元の方たちがこれまで取り組んできたことをまずちゃんと学んで、その上で移住者の人たちと新しい取り組みができないかなぁっていつも考えてるんだよね。今だけじゃなくて、10 年後、20 年後とかを考えた活動ができないかなぁと。
繭右:他に、漁業の問題ってある?
げん:まあ、問題は山積みだけど、一番の問題は俺の腕がないっていうことかな。(笑)
(爆笑)
繭右:後継者問題とかは?
げん:安房はにぎやかだと思うよ。他の地域ではホントに後継者がいないって聞くから。
風太:でも、実際厳しい商売だっていうのもあるよね。決して気軽にお勧めできる職業じゃないっていうか。でも、さっきの何がよかったって思うかって話に戻るけど、俺は毎日見る景色が最高に好きなんだよね。海からしか見えない景色ってあるからさ。海の上から見る屋久島。朝日と山とか。その景色を見ると、ここに連れてきてくれた両親に感謝する気持ちになるんだよね。
げん:何かの本で読んだんだけど、「大人が本気で遊べばそれが仕事になる」って。俺、漁師ってそういう仕事かなって思うんだよね。本気で遊んで、ホントに頑張って楽しんだ人が勝ちっていう。
風太:でも、あんまり楽しそうに仕事に行くと、奥さんは「遊びに行ってんじゃないか」って勘違いするからね。困る。(笑)
(爆笑)
※ここからは、携帯電話の魚の写真を見せあいながら、延々と魚トークが繰り広げられます。
風太:これすげ~、ヒレが光ってんじゃん!何この形~!
げん:俺もこれ見たことない!オスとメスで全然形が違うんだね。
繭右:夏に一湊の海水浴場のネットの所でじっとしてるとさ、色んな魚が寄ってくるんだけど、ミズイカも群れで寄ってきてさ、オスのミズイカが、メスの方には身体を真っ白にして寄り添うようにするんだけど、私の側の身体半分はギラギラギラギラさせて威嚇してるんだよね。身体の色が真っ二つになってすごいの。
げん:え~、俺それ見たことない!でもそれ、人間と一緒だね。
風太:でも人間は一度に二つの顔はできないじゃん。イカの方がすごい。(笑)
繭右:話は変わるけど、風太くん、息子に漁師になって欲しいと思う?
風太:まあ、本人がしたいって言えば。本人に「漁師になりたい」って言わせるようにしないといけないよね。(笑)でも、実際は心配かもね。子供ができてから、自分の両親も自分のことが心配なんじゃないかと思うようになったね。
繭右:そうだよね、転んで落ちたら終わりっていう世界だもんね。漁師さんのおトイレ事情もだけど、船につかまっておしりを海に突き出して、みたいな感じじゃん?もし間違って手が滑ったりしたら一巻の終わりだもんね~。おしりが天然のウォシュレットでビシャビシャよ~。(笑)
げん:俺んとこは女の子二人だから、あんまりそういうことは考えないけど、まあ、愛してやまないね~。(笑
※この後、お酒も進みますます熱い漁師話、お魚話が止まることなく繰り広げられました。今回のインタビューから、お二人が心から海を愛し、漁師という自分の仕事を楽しんでいるということが伝わってきました。そして今回のお話をきっかけに、今後 KITI でも「魚食普及」を目的とした企画をしていこうということに。もっともっと、漁業の町・安房の魅力を発信していこうと思っています。今後の展開にもご注目くださいね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!(PHOTO&TEXT nao)